マンション(分譲集合住宅)の管理や建替えに関わる事業者——不動産管理会社、マンション管理組合の理事、不動産仲介業者、建設業者——は、この改正の内容を把握し、担当物件・自社への影響を確認する必要がある。マンションを賃借しているだけのテナント事業者、または分譲マンションに一切関与しない一般中小企業への直接的な影響はない。事業用として区分所有する物件がある法人は「一般中小企業(法人・区分所有者)」の欄を参照してほしい。
建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)が2026年4月1日に施行された。改正の中心は「集会(総会)での意思決定要件の緩和」と「老朽マンション再生の実効性向上」の2点である。
改正の内容と対応の難しさ
普通決議の要件が変わった。 改正前は「区分所有者の総数および議決権総数の各過半数」が必要だったが、改正後は「出席した区分所有者と議決権の各過半数」で成立する。欠席者が多い集会でも管理費の改定や役員選任など日常的な議案を通しやすくなった。管理規約でより厳格な要件を定めている場合は規約が優先されるため、現行規約の確認が必要になる。
建替え決議の基本要件は5分の4のまま維持。 ただし、(1)耐震性の不足、(2)火災安全性の不足、(3)外壁剥落による周辺への危害のおそれ、(4)給排水管腐食による衛生上有害のおそれ、(5)バリアフリー基準への不適合——の5事由のいずれかに該当する場合は「4分の3以上」に緩和される。
一棟リノベーション・一括売却が新たな選択肢となった。 建物全体の大規模改修(一棟リノベーション)や建物・敷地の一括売却が、各5分の4以上の決議で可能になった。建物取り壊しのみという選択肢も法律上位置付けられた。
所在不明区分所有者への対応制度が新設された。 相続人存否不明・連絡不能な区分所有者について、管理組合が裁判所に申し立て、除外決定を得ることで議決権を分母から除外できる。ただし自動的に権利が制限されるわけではなく、個別の裁判所申立が必要である。
経過措置: 招集通知の発送タイミングで適用法が変わる。2026年3月31日以前に発送した集会には旧法の決議要件が適用され、4月1日以降に発送した集会からは新法の要件が適用される。既存の管理規約は施行後に直ちに無効にはならないが、新法の趣旨に沿った規約整備が推奨される。
| 立場 | 対応難易度 | 主な対応内容 |
|---|---|---|
| マンション管理会社 | 中(専門家との確認推奨) | 改正標準管理規約との照合・担当組合への説明・総会手続きの見直し |
| マンション管理組合 | 中(マンション管理士への相談推奨) | 現行規約の見直し・総会での規約改正決議 |
| 不動産業者 | 低〜中(社内様式更新・重説見直し) | 建替え・再生要件変更の把握・重要事項説明書の更新 |
| 建設業者 | 低(情報把握のみ) | 建替え決議緩和による新案件の把握 |
| 一般中小企業(区分所有者) | 低(管理組合の通知に従うだけ) | 管理組合の総会招集通知を確認・出席または委任状提出 |
あなたの立場別・対応ガイド
マンション管理会社(管理業者)
管理委託先の管理組合に対し、改正法に対応した規約改正と総会運営の見直しを支援する必要がある。国土交通省が2025年10月に公表した改正標準管理規約(令和7年10月版)が基準となる。外部への届出は不要で、管理組合内部の総会決議で完結する。
- 国土交通省マンション管理ポータルサイト(mansion-info.mlit.go.jp)から令和7年10月改正版「マンション標準管理規約(単棟型)」をダウンロードする
- 管理委託先の現行規約と改正版標準管理規約を条項ごとに比較し、変更が必要な箇所(普通決議の定足数規定・特別決議要件・所在不明者関連条項)を特定する
- 管理組合の理事会に改正案を提案し、総会への上程を準備する(議案書・参考資料の作成)
- 総会を招集し、招集通知を2026年4月1日以降に発送する(新法の決議要件が適用される)
- 総会で管理規約の改正を決議する(特別決議:出席区分所有者および議決権の各3/4以上の賛成)
- 改正規約に基づいた総会運営マニュアル(議事進行手順・定足数カウント方法)を更新する
必要書類: 改正前後の管理規約対照表、総会議案書、議決権行使書
届出様式: 外部届出なし(管理組合内部の決議で完結)
推奨: 規約条文の解釈・改正案の作成にはマンション管理士または弁護士への相談を推奨
情報源: 国土交通省 マンション標準管理規約
マンション管理組合(理事長・理事)
今回の改正で対応が必要なのは「現行規約と改正法の整合性確認」と「必要に応じた規約改正の総会決議」の2点。管理会社に委託している場合は管理会社主導で進めることが多いが、組合として内容を把握しておくことが重要。
- 国土交通省の改正標準管理規約(令和7年10月版)を管理会社から取り寄せるか、国交省サイトからダウンロードして現行規約と比較する
- 普通決議・特別決議要件の条項が旧基準のままであれば改正が必要な箇所としてマークする
- マンション管理士・弁護士に相談し、改正案を作成してもらう
- 総会で規約改正を決議する(出席区分所有者・議決権の各3/4以上の賛成)
留意点: 規約改正の手続きは総会開催から完了まで数ヶ月を要することがある。早期に着手することを推奨。
情報源: 国土交通省 マンション管理
不動産業者(売買仲介・投資)
建替え・再生決議の要件変更と新スキーム(一棟リノベーション・一括売却)を把握し、物件評価と重要事項説明書を更新することが求められる。
- 仲介する分譲マンション物件の管理規約が改正標準管理規約に対応済みかを管理会社・管理組合に確認する
- 海外在住の買主が生じる場合は、重要事項説明書に「国内管理人制度」の説明欄を追加し、管理規約での対応状況を明示する(宅建業法上の説明義務)
- 老朽マンション物件の評価基準と説明資料を更新し、建替え・一棟リノベーション・一括売却の新スキームを反映する
- 投資分析において、建替え決議要件の緩和(特定5事由に該当する場合は4分の3以上)を織り込んだ評価を行う
届出様式: 外部届出なし(重要事項説明書の社内様式更新のみ)
推奨: 改正内容の法的解釈は顧問弁護士または宅建業に精通した司法書士に確認を
建設業者
今回の改正による届出・申請は不要。ただし、特定5事由に該当する老朽マンション案件で建替え決議の成立可能性が高まるため、凍結状態だった案件を洗い出すことを推奨する。一棟リノベーション・一括売却という新スキームへの対応準備も合わせて社内で情報共有すること。法改正の詳細確認は顧問弁護士または不動産専門の司法書士に相談のこと。
一般中小企業(法人・マンション区分所有者として)
今回の改正による直接的な届出・申請は不要。ただし、自社が分譲マンションの一区画を事業用として所有している場合、管理組合の一員として集会の決議に参加する立場にある。
- 自社の不動産台帳を確認し、分譲マンションの区分所有があるかを確認する(テナントとして賃借のみの場合は対応不要)
- 区分所有がある場合、管理組合からの総会招集通知を確認し、改正後の決議要件(普通決議:出席者の過半数)を把握する
- 管理組合の規約改正に関する総会があれば、議決権を行使する(または書面・委任状で参加)
- 建替えやリノベーション案件が自社所有マンションで進む場合は、顧問弁護士に決議要件と法的影響を確認する
必要書類: 管理組合からの招集通知・議案書、議決権行使書または委任状
今日からできる最初の一歩
マンション管理会社・管理組合の方へ: 次の定例理事会または社内会議の議題に「改正標準管理規約との照合結果の報告」を追加し、担当者に国土交通省サイト(mansion-info.mlit.go.jp)からの令和7年10月版資料の入手を指示する。
不動産業者・建設業者の方へ: 法務省の改正解説ページ(moj.go.jp)を社内の担当者に共有し、関係する物件・案件への影響を1枚の社内メモにまとめる。