食品の生産・製造・流通・販売・提供に関わる事業者(食品製造業、食品卸売業、食品小売業、飲食業、農林漁業者)が対象。食品業界以外の一般中小企業(IT・建設・サービス業など)には直接適用されない。2026年4月1日、取引相手からコスト上昇を理由とした価格協議の申し出があった場合に「誠実に応じること」が法律上の努力義務として施行された。「協議を受ける側」になる場合は一方的拒否に注意が必要で、「申し出る側」になる場合はコスト指標という新たな交渉根拠を得た。
改正の内容と対応の難しさ
食料システム法(正式名称:食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律)は、農業資材費・食品原材料費の高止まりを背景に、コスト割れを抑止するために2025年6月に公布された新法。従来の食品等流通法を発展的に統合したもので、2段階で施行されている。
2026年4月施行の変更内容
| 変更点 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 価格協議への対応 | 法律上の義務なし | コスト上昇を理由とした申し出には誠実に協議する努力義務 |
| 商慣習見直しへの協力 | 法律上の義務なし | 物流効率化等の提案があった場合、検討・協力する努力義務 |
| コスト指標 | なし | 農林水産大臣指定品目(米・野菜・飲用牛乳・豆腐・納豆等が候補)について作成・公表 |
2025年10月に先行施行済みの計画認定制度(農林水産大臣認定を受けると税制優遇・低利融資を受けられる任意制度)はこれとは別枠。既存取引への遡及適用はなし。
難しさの開示(立場別)
| 立場 | 難易度 | 何が必要か |
|---|---|---|
| 食品製造業・卸売業・小売業 | ★★☆ | 社内の価格協議対応フローの整備(記録・担当者・回答期限の明確化) |
| 飲食業 | ★☆☆ | 仕入れ先からの協議申し出への対応方針確認 |
| 農林漁業者 | ★☆☆ | コスト指標を活用した価格交渉の準備 |
| 計画認定制度を活用したい場合 | ★★★ | 農林水産省への計画申請(専門家関与を推奨) |
「努力義務」であり直接的な罰則はないが、以下のケースは農林水産大臣の指導・助言・勧告・公表の対象となりうる:①コスト上昇を説明したにもかかわらず一方的に価格交渉を拒絶する、②補助金等を理由に一方的に値引きを求める、③消費者の値頃感を理由に一方的に納品価格を決める、④商慣習改善の提案があるにもかかわらず一方的に協力しない。農林水産大臣が「食品等取引実態調査」を実施し、不公正な取引方法に該当する場合は公正取引委員会に通知する仕組みも設けられている。
あなたの立場別・対応ガイド
食品製造業・食品卸売業・食品小売業(中小企業)
取引の流れの中で「協議を受ける側」にも「申し出る側」にもなりうる立場。対応の核心は「誠実な協議の場を設ける」ことを社内フローとして確立することで、複雑な手続きや届出は不要。
- 自社の立場を取引先別に整理する:仕入れ先と販売先のそれぞれについて、「コスト協議申し出を受ける可能性」と「自社から申し出る必要性」の両方を確認する。
- 協議対応の社内フローを整備する:協議申し出を受けた場合の担当者・記録方法・回答期限を文書化する。「拒絶」ではなく「協議の場を設ける」対応が求められる。記録は行政調査時の証拠にもなる。
- コスト指標を確認する:農林水産省の指定品目(米・野菜・飲用牛乳・豆腐・納豆等が候補)のコスト指標は価格交渉の客観的根拠として使える。農林水産省の適正取引推進ページ(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/tekiseitorihiki.html)で最新情報を確認。
- 不明点は農林水産省に相談する:取引に関する相談ダイヤル(TEL:03-3502-5744、平日9:30〜17:15)が開設されている。
税制優遇・低利融資を希望する場合は計画認定制度の活用が選択肢となる。詳細は下記「税理士・会計士事務所」の項を参照。
飲食業
仕入れ食材にコスト指標指定品目が含まれる飲食業者にとっては、交渉の法的根拠を得た改正でもある。
- 仕入れ先からの価格協議申し出に備える:食材のコスト上昇を理由とした価格協議申し出を受けた際、一方的に拒否しないよう社内方針を確認する。
- コスト指標を活用する:自社が取引先(小売・卸等)へ価格交渉を行う際に、農林水産省のコスト指標を根拠として活用できる。「法律に基づく合理的な価格形成」として説明しやすくなる。
- 農林水産省の相談ダイヤルを活用する:TEL:03-3502-5744(平日9:30〜17:15)で取引に関する相談が可能。
農林漁業者
今回の改正でコスト転嫁の法的根拠を得た立場。コスト指標を活用した交渉が有効になる。
- コスト指標の公表状況を確認する:農林水産省の食料システム法ページ(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/250623.html)で自分の品目が指定品目に含まれているか確認する。
- 価格協議申し出の際はコスト内訳を準備する:「持続的な供給に要するコスト等の考慮を求める事由」を示すことが法律上の要件。原材料費・燃料費・人件費等の具体的な上昇内訳を数字で用意した上で申し出ることが重要。
- 一方的に拒絶された場合は農林水産省に相談する:相談ダイヤル(TEL:03-3502-5744)または農林水産省の適正取引推進ページから相談できる。相手方の一方的拒絶は行政指導の対象となりうる。
税理士・会計士事務所
食品業界クライアントへの計画認定制度の適用支援が新たな業務機会となる(2025年10月施行済み)。
- 計画認定制度の内容を確認する:農林水産省の計画認定ページ(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/keikaku/gaiyou.html)で4つの認定対象取組(①生産者との安定取引関係確立、②流通合理化、③環境負荷低減、④消費者への情報提供)の詳細と支援内容(中小企業経営強化税制:即時償却または法人税額控除、日本政策金融公庫の低利融資)を確認する。
- 対象クライアントを特定する:食品製造業・食品卸売業・食品小売業・外食業者のクライアントの中から、上記4取組のいずれかに取り組む計画がある事業者を特定する。
- 農林水産省に申請手続きを照会する:大臣官房新事業・食品産業部 新事業・食品産業政策課 企画グループ(TEL:03-6744-2278)で申請書類・手続きの詳細を確認する。
食品業界以外の一般中小企業(IT・建設・サービス業など)
今回の改正による直接的な対応は不要。ただし、食品関連の仕入れ先や外食業者と継続取引がある場合、相手方がコスト協議を申し出てくる可能性が生じる点だけ把握しておくと良い。
今日からできる最初の一歩
食品関連事業者(製造・卸・小売・飲食)の場合: 次の取引連絡メール・電話の前に、農林水産省の適正取引推進ページ(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/tekiseitorihiki.html)でコスト指標の公表状況を1件確認し、自社の主要品目が指定品目に含まれているかを把握する。
農林漁業者の場合: 次の出荷前に、農林水産省の食料システム法ページでコスト指標の公表状況を確認する。自品目が掲載されていれば、次回の価格交渉でそのデータを持参する。