建設・製造・運送・清掃・警備など、外注先に個人事業者(一人親方・フリーランス)を使っている発注側の事業者は、令和8年(2026年)4月1日から安全管理義務が拡大している。また、化学物質(SDS対象品)を製造・販売する事業者や、ボイラー・クレーン等の特定機械を保有する事業者にも、それぞれ新たな義務が生じた。
一方、外注先が全員法人で個人事業者がゼロの事業者、化学物質や特定機械に無縁の一般サービス業・小売業については、今回の改正で即座の対応は不要だ。ただし、従業員50人未満のすべての事業者は令和10年(2028年)頃を目途にストレスチェックが義務化されるため、早めの準備が望ましい。
今回の改正は、「労働者と同じ場所で働く個人事業者等」を労働安全衛生法による保護の対象・義務の主体として正式に位置づけたもの。これまで同法は雇用関係にある「労働者」だけを守る法律だったが、一人親方やフリーランス等が現場で負傷するケースが後を絶たなかったことから、大幅改正が成立した。
改正の内容と対応の難しさ
今回の改正には5本の柱があり、施行日もそれぞれ異なる。特に影響が大きい内容を整理する。
柱1: 個人事業者等への安全衛生保護(令和8年4月1日・令和9年4月1日)
最大の変化はここだ。建設・製造・運送等の現場で、労働者と並んで個人事業者(一人親方、フリーランス等)が作業する場合、発注事業者(注文者)は以下の義務を負う。
- 危険有害作業を請け負わせる際の安全衛生教育の提供
- 保護具(ヘルメット・安全帯等)の使用確保
- 混在作業時の健康障害防止措置
なお、退避・立入禁止等の措置は既に令和7年(2025年)4月から施行済みであり、今回はそれに加えて保護措置の範囲がさらに広がる形だ。令和9年(2027年)1月以降は個人事業者自身にも業務上災害の報告義務が課せられる。
柱2: 化学物質規制の強化(令和8年4月・10月施行)
SDS(安全データシート:化学物質の危険性・有害性・取扱方法等を記載した文書)の情報通知義務に違反した場合、令和8年4月1日から罰則が新設された。違反すると刑事罰の対象となりうるため、化学物質を製造・販売する事業者は整備状況の点検が急務だ。また、成分名が営業秘密に該当する場合、有害性の低い物質に限り代替化学名での通知を認める制度も導入された。令和8年10月からは個人ばく露測定(作業者が実際に吸い込む濃度を直接測定する手法)が作業環境測定の一つとして正式に位置付けられる。
柱3: 特定機械の検査制度見直し(令和8年1月・4月施行)
ボイラー・クレーン等の特定機械の設計審査・製造時等検査・性能検査について、民間の登録機関が実施できる範囲が拡大された。申請先や手続きが変わる機器があるため、次回の定期検査前に確認が必要だ。費用や手続き負担は従来と大きく変わらない見込みだが、申請先が変わっている場合がある。
柱4: ストレスチェック義務拡大(施行日は令和10年頃まで政令で定める)
現在は努力義務となっている50人未満の事業場へのストレスチェック実施が義務化される。ただし施行日は政令指定(公布後3年以内、最遅で令和10年5月頃)のため、令和8年4月1日時点では義務化されていない。今すぐ対応は不要だが、体制準備を始めておくと余裕を持って対応できる。
柱5: 高年齢労働者の安全対策(令和8年4月1日施行)
高年齢労働者(概ね60歳以上)の転倒・腰痛等防止措置が事業者の努力義務となり、国が指針を策定する。罰則はない。
対応の難しさ早見表
| 読者層 | 対応の難しさ | 主な対応内容 |
|---|---|---|
| 個人事業者を使う発注者(建設・製造等) | 中程度 | 現場の安全管理体制の見直しが必要 |
| 化学物質製造・販売業者 | 中程度 | SDS整備・更新(不備は罰則対象) |
| 特定機械保有者 | 低 | 申請先・手続き確認のみ |
| 50人未満の全事業者(ストレスチェック) | 低(現時点) | 体制準備(義務化は令和10年頃) |
| 外注先が全員法人の事業者 | なし | 今回の改正では即時対応不要 |
化学物質SDS違反には新たな罰則が設けられた点は特に注意が必要だ。一方、高齢者安全対策の不履行は現時点では罰則がない(努力義務)。ストレスチェックについては施行日が確定次第、改めて確認が必要になる。
あなたの立場別・対応ガイド
一般中小企業(法人)— 個人事業者を現場で使う発注者
令和8年4月1日は既に到来しているため、個人事業者を現場で活用している場合は今すぐ対応状況を確認してほしい。以下のステップで進める。
- 外注先の確認: 自社の外注先・下請け先リストを確認し、個人事業者(一人親方・フリーランス)が現場に入っているか確認する。法人格があれば今回の義務は原則対象外。
- 作業内容の確認: 個人事業者が従事する作業が「危険有害作業」(高所作業、化学物質取扱い、重機周辺作業等)に該当するか確認する。該当しない軽作業のみの場合は保護措置の範囲が限定される。
- 安全衛生教育の提供体制整備: 危険有害作業に従事する個人事業者に安全衛生教育を提供する体制を整える。既存の雇用労働者向け安全教育の資料をそのまま流用できる場合が多い。業界団体の研修を活用することも可能。
- 保護具の使用確保: 現場に入る個人事業者が必要な保護具(ヘルメット、安全帯、防塵マスク等)を使用していることを確認する体制を設ける。
- 化学物質業者の場合(追加): SDS(安全データシート)の整備状況を確認し、通知すべき情報(成分名、危険有害性、応急措置等)に漏れがないか点検する。令和8年4月1日から違反は罰則対象。
届出: 安全教育提供・保護措置への対応は都道府県労働局への届出は原則不要(現場の実施記録保存が中心)。特定機械の定期検査申請先については変更の可能性があるため、厚生労働省ウェブサイトで最新の申請先を確認すること。
個人事業主・フリーランス — 保護される側
令和8年4月1日から、発注者(注文者)があなたに安全衛生教育の提供・保護具の確保等を行う義務を負うことになった。現場で教育や保護具の提供を受けた場合は、適切に活用してほしい。
現時点での届出等は特に不要だ。ただし、令和9年(2027年)1月以降はあなた自身にも業務上で負傷した場合の「報告義務」が課せられる予定のため、社会保険労務士や加入する業界団体・一人親方組合に令和8年中に相談しておくと安心。まずは業界団体に最新情報の問い合わせを。
社労士事務所
クライアント(発注側の中小企業)に対し、以下の3点を優先的に支援することを推奨する。
- 外注先に個人事業者がいるかどうかのスクリーニング確認支援
- 安全衛生教育の提供体制整備支援(既存の教育資料活用方法の提案、業界団体研修の紹介)
- ストレスチェック義務化(50人未満)に向けた実施体制の事前準備提案(地域産業保健センターの活用を含む)
ストレスチェックは施行日が政令で定められる形式のため、施行日確定後に速やかにクライアントへ周知できる体制を整えておくことが重要。現行の50人以上事業場向けの結果報告書(様式第6号の2)は所轄労働基準監督署への提出が必要で、e-Gov経由の電子申請も可能。義務化後は50人未満事業場にも同等の報告義務が生じる予定。
大企業・上場企業
担当部門(安全管理部・法務・HR)でクロスチェックすること。
□ 個人事業者(一人親方・フリーランス)との取引状況の洗い出し(全事業部門対象) □ 個人事業者が従事する作業の危険有害性分類と保護措置の適用可否確認 □ 安全衛生教育の提供体制・実施記録の整備 □ 化学物質SDS通知義務の遵守状況確認(令和8年4月1日から罰則あり) □ 特定機械(ボイラー・クレーン等)の次回検査申請先・手続き確認 □ ストレスチェック実施体制の見直し(50人未満事業場を持つ場合は要対応)
今日からできる最初の一歩
もし今、あなたが建設・製造・運送等の事業を営んでいて、外注先に個人事業者がいるかどうかを把握していないなら——今週中に外注先・下請け先リストを開き、法人か個人かを確認するだけでいい。
それだけで「自社は対象か否か」がわかる。対象であれば、次のステップ(安全教育資料の整備)に進む。対象でなければ、今回の改正でやることは実質ゼロだ。
社労士や安全衛生コンサルタントへの相談が必要になるのは、個人事業者を複数の現場で定常的に活用している場合や、化学物質を取り扱う現場がある場合だ。まず「自社に個人事業者がいるか」の一点を確認してから、必要に応じて専門家に相談する順序で問題ない。