今回の改正で影響を受けるのは、派遣労働者を受け入れているすべての企業・事業所だ(業種・規模の制限なし)。特に①60歳以上の派遣社員を受け入れている場合と、②疾病治療中の派遣社員がいる場合は実務的な対応が生じる。派遣社員を一切受け入れていない企業——正社員・直接雇用のみで運営している事業者——には今回の改正による直接的な影響はない。
2026年4月1日、労働者派遣法第45条と第47条の4が改正され、派遣先企業にも高年齢派遣労働者の労災防止と治療・仕事の両立支援に関する努力義務が新たに課された。派遣元(人材派遣会社)自身も、自社が雇用する派遣社員に対して同様の義務を負う。
改正の内容と対応の難しさ
改正点1(第45条): 高年齢派遣労働者の労災防止
労働安全衛生法第62条の2が、派遣先を「使用者とみなす」第45条の適用条文リストに追加された。同条は、事業者に対して60歳以上の労働者の労働災害防止のため、「高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない」と規定する努力義務だ。転倒・腰痛・熱中症など、加齢とともにリスクが高まる労災への対応が想定される。
改正前は、この規定は直接雇用の労働者にのみ適用されていた。改正後、派遣先も60歳以上の派遣社員の労働環境について同様の努力義務を負う。体制整備を進めることで、万一の労災事故時の安全配慮義務立証にも備えられる。
改正点2(第47条の4): 治療と仕事の両立支援
労働施策総合推進法第27条の3第1項(治療と仕事の両立支援)が、派遣先への適用リストに追加された。がん・糖尿病・脳卒中・難病等を抱えながら働く派遣社員への配慮について、これまでは派遣元(人材派遣会社)が主に担うとされていたが、改正後は派遣先も同様の努力義務を負うことが明確化された。
両改正点はいずれも努力義務であり、行政処分や罰則が直ちに生じるわけではない。ただし、高年齢派遣社員の労災事故発生時や治療中の派遣社員への対応を怠った場合、民法上の安全配慮義務違反として民事責任を問われるリスクがある。経過措置はなく、2026年4月1日から即時適用されている。
難易度と対応概要
| 立場 | 対応の複雑さ | 必要な対応 |
|---|---|---|
| 派遣労働者受入企業 | 低〜中 | 現状確認と担当者設定で完了 |
| 人材派遣業(派遣元) | 低 | 派遣先への周知と情報共有体制の確認 |
| 社労士事務所 | 中 | クライアントへの改正周知と体制整備支援 |
あなたの立場別・対応ガイド
一般中小企業(法人)/派遣労働者受入企業
まず確認すること: 現在、派遣労働者を受け入れているか?受け入れていない場合、今回の改正による直接的な対応は不要だ。
受け入れている場合、届出様式の提出は不要——社内体制を整えることが主な対応となる。
- 現状確認(派遣元へ照会): 現在受け入れている派遣社員の中に60歳以上の方または疾病治療中の方がいるかを、派遣元担当者に確認する
- 作業環境点検(高年齢対応): 60歳以上の派遣社員がいる場合、就業箇所の段差・照明・重量物取扱い状況を点検し、改善が必要な箇所をリストアップする
- 相談担当者の設定(両立支援対応): 疾病治療中の派遣社員から申出があった場合の社内担当者(1名で可)を明確にする
- 任意様式の活用(必要な場合のみ): 複雑な事案には厚生労働省「治療と仕事の両立支援ガイドライン」別添様式(別添2-1〜2-5)を活用する(厚生労働省サイトから入手可)
人材派遣業(派遣元)
派遣元自身も、自社が雇用する派遣社員に対して同様の努力義務を負う。さらに、派遣先企業が改正内容を把握していない場合は、周知と連携体制の整備が求められる。
- 派遣先への改正周知: 取引中の派遣先企業に対し、今回の改正により派遣先にも努力義務が生じることを通知する
- 情報共有体制の確認: 派遣社員の年齢・健康状況(治療中か否か)について、プライバシーに配慮しながら派遣先と必要に応じて共有できる体制を確認・整備する
- 自社マニュアルへの追記: 自社が雇用する高年齢派遣労働者の管理マニュアルに、安衛法第62条の2への対応方針を追記する
社労士事務所
派遣活用クライアントを多く抱える事務所では、本改正の周知と体制整備支援が主な業務となる。製造業・建設業・IT業で派遣活用が多い事業者は特に要注意だ。
- クライアントへの改正周知: 派遣労働者を受け入れているクライアントに改正内容を通知し、対応状況を確認する
- 点検記録の作成指導: 60歳以上の派遣社員を受け入れているクライアントには、作業環境点検記録の作成・保存を指導する(労災発生時の安全配慮義務立証に有効)
- 両立支援様式の案内: 治療中の派遣社員への対応について、厚生労働省の両立支援様式(別添2-1〜2-5)の活用を案内し、必要に応じて両立支援コーディネーターへの相談を勧める
今日からできる最初の一歩
派遣労働者受入企業の場合: 次回の派遣会社担当者との連絡の際に、「現在受け入れている派遣社員に60歳以上の方はいますか」と一問だけ確認する。それだけで今回の改正への第一歩が踏み出せる。
人材派遣業(派遣元)の場合: 今週中に、派遣先企業への定期連絡に今回の改正を1項目追加する手順を確認する。既存の連絡フローがあれば、次回の配信内容に組み込むだけでよい。