2026年4月1日施行の健康保険法改正により、従業員を雇用するすべての事業所(全業種・規模問わず)で、2026年5月の給与天引きから「子ども・子育て支援金」の控除が始まります。一方、従業員を雇っていない個人事業主・フリーランス(国民健康保険加入者)への直接的な事業所負担はありません。また、保険医療機関(病院・診療所)を運営する法人に対しては、院長等の管理者要件も同日から強化されています。今回の改正のポイントは、新たな保険料負担が自動的に始まること——経営者が何もしなければ、給与計算システムの設定ミスや従業員への説明不足が生じるリスクがあります。
改正の内容と対応の難しさ
改正1: 子ども・子育て支援金の新設
健康保険料の算定に「子ども・子育て支援金率」が新たに加わりました。「こども未来戦略加速化プラン」の財源として、医療保険の仕組みを使って全世代・全事業者から徴収される制度です。
保険料率と段階的引き上げ:
| 年度 | 支援金率 | 企業負担率 | 従業員負担率 |
|---|---|---|---|
| 2026年度 | 0.23% | 0.115% | 0.115% |
| 2027年度 | 段階的引き上げ(詳細未公表) | — | — |
| 2028年度 | 約0.40% | 約0.20% | 約0.20% |
2028年度以降は引き上げない方針とされています。
企業の年間負担額目安(2026年度):
| 従業員数 | 企業年間負担目安 |
|---|---|
| 10名 | 約46,000円/年 |
| 50名 | 約230,000円/年 |
| 100名 | 約461,000円/年 |
標準報酬月額の平均を基に試算。2028年度完成時には約1.74倍(0.40%÷0.23%)に増加見込み。
徴収タイミングの注意点: 健康保険料の通常変更(3月分→4月給与反映)と支援金開始(4月分→5月給与反映)のタイミングがずれるため、2026年は4月・5月の2回にわたって給与計算の設定変更が必要になる場合があります。
賞与への適用: 月例給与と同様の支援金率で計算されます(健康保険・厚生年金と同じ扱い)。
育児休業中の免除: 健康保険料・厚生年金保険料と同様に、育休中は支援金も免除されます。
改正2: 保険医療機関の管理者要件強化(第70条の2 新設)
病院・診療所を運営する法人のみに関わる改正です。一般の中小企業には直接関係ありません。
2026年4月1日以降、保険医療機関の管理者(院長等)は以下を満たす必要があります。
- 保険医(医科または歯科)であること
- 3年以上の診療経験(臨床研修期間を含む場合あり)
- 週4日以上・週31時間以上の勤務
経過措置: 2026年4月1日時点で管理者に就任済みの者は、同一機関の管理者である限り2029年3月31日まで(3年間)新要件なしで継続可能。
対応の難しさの整理
| 立場 | 難易度 | 何が必要か |
|---|---|---|
| 一般中小企業(法人) | ★★☆ | 給与計算ソフトの設定変更で完了(届出不要) |
| 個人事業主・フリーランス(従業員なし) | 対応不要 | 自身の国保は市町村が対応 |
| 税理士・会計士事務所 | ★★☆ | 顧問先への説明と計算確認が必要 |
| 社労士事務所 | ★★☆ | 顧問先の給与計算実務支援が必要 |
| 保険医療機関を運営する法人 | ★★★ | 管理者要件の確認+将来計画(専門家相談を推奨) |
あなたの立場別・対応ガイド
一般中小企業(法人)— Pattern A(DIYガイド)
届出は不要です。給与計算の設定変更のみで対応できます。
ステップ 1: 給与計算ソフトの対応状況を確認する クラウド型給与ソフト(freee、マネーフォワード、弥生クラウド等)は自動アップデートが予定されています。まずベンダーのサポートページで「子ども・子育て支援金」対応のアナウンスを確認してください。
ステップ 2: 設定変更を実施する(2026年4月末までに) 支援金率0.23%(労使折半で各0.115%)を給与計算システムに設定します。控除タイミングは翌月控除の場合は2026年5月給与から、当月控除の場合は2026年4月給与からです。
ステップ 3: 給与明細の控除項目を追加する 「子ども・子育て支援金」を健康保険料とは別の控除項目として表示することが推奨されています。システムの明細レイアウト設定を確認してください。
ステップ 4: 賞与計算への反映を確認する 夏季・冬季賞与の計算時にも同率(0.23%)が適用されます。賞与計算のテンプレートにも設定変更が必要かどうかを確認してください。
ステップ 5: 4月・5月のダブル変更を管理する 2026年は通常の健康保険料率変更(4月給与)と支援金開始(5月給与)が1ヶ月ずれて発生します。4月給与処理後に再度設定を確認する時間を確保してください。
ステップ 6: 全従業員に説明する 給与天引きが始まる前に、制度の趣旨・負担額・給与明細での表示方法を説明します。社内ポータルへの掲示や、給与明細配布時の一言説明が有効です。
ステップ 7: 人件費計画に反映する 2028年度に向けて支援金率が段階的に約0.40%まで引き上げられます。中長期の人件費計画に企業負担分の増加(2028年度は2026年度比約1.74倍)を織り込んでください。
個人事業主・フリーランス(従業員なし)— 対応不要
今回の改正による直接的な事業所負担はありません。国民健康保険加入の個人事業主については、市町村が保険料に含めて対応します(別途手続き不要)。
ただし、従業員を雇用している場合は「一般中小企業」の手順を参照してください。社会保険の適用拡大(週20時間以上・月収8.8万円超のパート等)を機に雇用形態の見直しを検討している方は、社労士への事前相談を推奨します。
税理士・会計士事務所— Pattern B(専門家委任ガイド)
顧問先企業への対応支援が求められます。以下を顧問先への相談・確認事項として活用してください。
顧問先への確認・アドバイス項目:
- 給与計算ソフトの対応状況確認(自動更新の有無)
- 会計仕訳の整理: 企業負担分は「法定福利費」として処理(健康保険料と同じ扱い)
- 人件費増加を踏まえた賃金設計・資金繰りへのアドバイス(2028年度まで段階的増加)
- 顧問先の標準報酬月額ベースの負担額シミュレーション提供
顧問先の給与計算を事務所が代行している場合は、自事務所の給与計算ソフトの対応状況を先に確認し、4月・5月のダブル変更スケジュールを管理してください。
社労士事務所— Pattern A(DIYガイド)
顧問先の給与計算実務を支援する立場として、以下の手順で対応します。
ステップ 1: 顧問先の給与計算システムの種類(クラウド型・自社構築・Excel等)を確認する
ステップ 2: クラウド型は自動更新を確認。自社構築・Excelの場合は支援金率0.23%の計算ロジック追加を支援する
ステップ 3: 2026年4月(保険料率変更)と5月(支援金開始)のダブル変更スケジュールを顧問先ごとに管理する
ステップ 4: 顧問先の従業員向け説明文書の作成を支援する
ステップ 5: 医療機関を顧問先に持つ場合は、管理者要件・経過措置の確認を追加で実施する(同一機関管理者は2029年3月31日まで猶予あり)
保険医療機関を運営する法人— Pattern A(DIYガイド)
管理者要件の強化が直接適用されます。経過措置の適用可否を最初に確認してください。
ステップ 1: 経過措置の適用確認(最優先) 現在の管理者(院長等)が2026年4月1日時点で就任済みであれば、2029年3月31日まで(3年間)新要件なしで継続可能です。書類上の確認のみで当面対応できます。
ステップ 2: 新規就任予定者の要件確認 2026年4月1日以降に管理者を交代する場合は、新任者が「保険医資格+3年以上の診療経験+週4日以上・週31時間以上の勤務」を満たすかを確認してください。
ステップ 3: 管理者の責務を内部規程で確認・整備 従業者の監督義務、診療報酬請求・施設基準届出の適正性確認体制、診療録・帳簿の管理体制を確認します。
ステップ 4: 後継者計画の策定(経過措置期間内に) 経過措置が切れる2029年3月31日までに、新要件を満たす管理者候補を確保してください。要件未充足の場合の保険医療機関指定への影響については、地方厚生局または顧問の行政書士・弁護士への相談を推奨します。
ステップ 5: 子ども・子育て支援金の給与計算対応も忘れずに 医療機関も従業員を雇用する事業所ですので、一般中小企業と同様の給与計算対応が必要です。
今日からできる最初の一歩
一般中小企業・社労士事務所の方へ: もし今日、給与計算ソフトのログイン画面を開く機会があれば、「お知らせ」または「更新情報」タブを確認してください。子ども・子育て支援金への対応状況が掲載されているはずです。確認できなければ、ベンダーのサポートページで「子ども・子育て支援金」と検索することが最初の一歩です。
保険医療機関を運営する法人の方へ: 次に事務長や管理者と面談する機会があれば、「現在の院長は2026年4月1日以前から管理者か」を一点確認してください。「はい」であれば2029年3月まで対応猶予があります。「いいえ」または「近く交代予定」であれば、今すぐ地方厚生局に要件を確認することが次の一歩です。